もうひとつの海列車、ロケットマン。
「こんなものがあったとはなぁ」
サンジはタバコに火をつけて、車内を見回した。
「な! すっげーだろ?」
「いや、すげーけどな。何だこの食いカスの山」
「美味かったぞ!」
「そうじゃねぇだろ」
サンジはルフィを小突いて、床に目を落とす。
散らばっているのは、脂の付いた紙、鶏肉の骨、香辛料の欠片。
それから、色とりどりの空ビン。
前者はルフィが肉を食べた残りで、後者はきっと。
「アイツ何本飲んだんだ」
そう言ってサンジは一本拾い上げ、ラベルを眺める。
「数えるのもバカバカしいくらい、よ」
呆れた声でナミが言う。
「バカみたいな量運んでやったのに、あっという間に消えちゃったわ」
サンジは目を瞠ってナミを見た。
「この量をナミさんひとりで運んだのかい?」
「そうよ」
「ああ! おれがいれば、そんなことはさせなかったのに!」
「そうねーサンジくんがいれば私もやらなかったわー」
そんなふたりのやりとりを見た当の本人は、
「…あほが」
と、つぶやき車両前方へ歩を向けた。
「んだと?」
「ねぇ、サンジくん」
絶妙のタイミングで、ナミはサンジの肩に手を乗せた。
予想外の出来事に、サンジは全身を硬直させる。
「心配しなくても大丈夫」
「…何が?」
思わずサンジはたじろいだ。
が、ナミは頓着せずに、サンジの耳元に口を寄せた。
「衣装ケースの一番奥」
「な、」
思わず絶句するサンジに、ナミは囁くように続けた。
「あれは、飲ませてないから」
「……知ってたの?」
ナミは婉然と微笑んだ。
「こそこそ取り出して、慌ててしまったでしょ。却って目立つのよ」
「あー…」
サンジはバツが悪そうに頭を掻いた。
「見てたの?」
ナミは無言で肯定した。
それは、メリー号を降りるのに慌てて荷物をまとめた時。
キッチンも私物を片づけなくてはと焦りつつ、これだけはと。
買い出しの荷物から、出して割れないようにと。
酒を、一本。
服に包んでケースの一番奥へ、しまい込んだのだ。
誰にも見付からないように、こっそりと。
「いっそ、堂々としてたら気付かなかったのに」
サンジは大げさにため息をついて、両手を挙げた。
「ナミさんには、敵わないなぁ」
「敵う気でいたの?」
「とんでもない」
ふたりは目を見合わせて、微笑んだ。
「アイツ、あれの美味さが分かるかなあ」
「さあ? でも好みの味なんじゃないの」
どうでもいい、と言うようにナミは手の平をひらひらさせた。
「冷たいなぁ、ナミさんは」
「だって、サンジくんが選んでダメなら誰が選んでもダメでしょ」
意外な言葉に、サンジは目を見張った。
それは、最高の褒め言葉だ。
そうだ。
好みを熟慮し吟味を重ねた酒だ。
不味い、なんて言わせるものか。
サンジは紫煙を吐き出し、口元で笑った。
「さっさとロビンちゃんを取り戻して、祝杯を挙げよう」
「どっちの?」
小悪魔めいた笑みを浮かべて、ナミが尋ねる。
サンジはにやりと笑って、
「そりゃ勿論」
と、前方へ視線を走らせた。
その先にあるのは、取り返しに行く仲間か、はたまた。
-end.