切れそうな光。
まっすぐで。
鋭く。
強く。そして激しい。
そんな瞳を見たのは初めてだった。
離れた場所で見ても感じられるその光を。
目の前で受けてみたい。と思った。
ぽかぽか陽気の甲板で、そいつは今日も昼寝をしている。
たまに動いていると思ったら、気が遠くなるような鍛錬をしている。
平時のこいつを見ていると、あの時の光は幻だったのかもしれない。と、思う。
「おい邪魔だクソマリモ」
広い甲板の中央で大の字になる男を、けっ飛ばす。
迂回したっていいのだが、なんとなく。
「……だと…」
文句らしい言葉が洩れて消えた。
これくらいでは起きないらしい。
さすがというか、なんというか。
にくたらしい。
煙草のフィルターを噛みしめながら、そいつの横にしゃがみ込む。
「邪魔だっつってんだよ」
無反応。
清々しいほど。
腹立たしいほど。
これで今までどうして生き延びてこられたのか。
全く、不可解だ。
真面目に働いて戦って来た自分の立場はどうなんだと言いたくなる。
「……」
最後の紫煙を顔面に吹きかけてみる。
軽くむせたが、起きない。
徹底的に無視されているようでムカついてくる。
「………」
首に手を伸ばす。
頸動脈。
ここに力を込めて、数秒すれば人は死ぬ。
分かりやすい急所。
ここに触れれば、起きるはず。
なのに。
「………ん…」
わずかに身動ぎしただけで、変わらず寝息を立てている。
脳天気なのかなんなのか。
そしてこの手をどうしろと。
「つうかさ…」
思わずぼやく。
「目ぇ覚ませよ」
そして。
あの目を見せてくれないかなぁ。
真っ直ぐな。
切れそうな。
鋭い。
光。
「なぁ」
呆れるほどに、無反応。
背中がじりじりと、して。
思わず手に。力、が。
「…なあ」
慌てて堪えて。
ゆっくりと、手を離して。
「なぁ…ゾロ」
そのまま前のめりに、倒れ込む。
三つのピアスが頬に触れた。
顔を傾ける。それらが光を反射して、網膜を焼く。
「……」
違うんだよなぁ。
違うんだけどさ。
似てるかな。少しだけ。
でもなぁ。
唇で触れる。なめらかで固い。陽のせいか体温のせいか、あたたかい。
違うなぁ。
だって、あの光は冷たい。
「…」
仕方がないから口に含んで引きちぎろうかなだって偽物だし。
と思ったが実行には移さない。
血が見たいわけではないから。
でもそうしたらあの瞳をして起きるだろうか。
頭の片隅で思ったことを振り払って立ち上がって煙草に火を付けて。
なんだってこんな気持ちになっているのか疑問に思いながら。
思いきり紫煙を吐き出した。
心の霧も一緒に出て行くように願いながら。
-end.