サンジを真正面から射抜く瞳。
淡い月光の下、無人の甲板で。
ゾロは寝転がったままの姿勢。両腕を掴まれた状態だというのに、その瞳は静かに強く。
「本気か」
瞳と同じ温度を持った声が問う。
サンジは、目を閉じた。
聞き慣れた潮騒。そしてすぐ下から、平坦な息づかい。
「冷静なんだな」
憎々しげに吐き出せば、
「そうでもない」
と変わらぬ調子で返される。
どういうつもりなのか、分からないような体勢ではないというのに。
簡単に振り払えるつもりでいるのだろうか。
確かに腕力で敵うとは思わない。が、簡単に振り払えるほど、ひ弱なつもりもない。
掴んだ腕を、握りしめる。ただ、無言で。
このまま痕がつけばいい。それほどの力で。手加減もせずに。
けれど口元を苦しげに歪めただけで、声ひとつあげない。
「どういうつもりだ」
「……」
「ただ黙ってやられるつもりか」
答えの代わりに、揺れない視線がサンジを射抜く。
それに耐えきれず、手をほどいた。
ゾロはゆるやかに息を吐いて、腕をさする。
無言のまま。
つられてサンジも、ゆっくり息を吐く。
「……」
声よりも吐く息の方が多いような、囁くような声でゾロが言う。
「どうして、そんな顔をしているんだ」
「どんな顔だよ」
ゾロは静かにサンジを見つめ、変わらぬ静かな瞳で言った。
「……この世の終わり、みてぇな」
「この世の、終わり。…」
酷薄な笑みを浮かべてサンジはつぶやく。
「そうかもな」
「なんで」
「分からねぇから」
顔をしかめるゾロに、サンジは嘲るような笑みを浮かべた。
「自分が分からねぇんだ」
そして、くつくつと声を立てる。それは、自分を嘲る笑い。自虐的な。
「何で、こんなことしてるのかってのがな」
分からない。
どうして、こんなヤツを押し倒しているのか。
「お前だって、おれが何をしようとしたかくらい、分かってんだろ?」
掴んだ腕と瞳に滲んだ、熱が何を意味するのかくらい。
ゾロは見つめる瞳でそれを肯定する。サンジは声は出さずに、だったら、とつぶやく。
「だったら、何で逃げねぇんだ」
「逃げたら、どうにかなんのか」
ゾロが静かに答えた。その言葉の意味が分からず、サンジは視線で先を促した。
「おれが逃げて、それでお前がそんな顔しなくなるのか」
そうじゃないだろう。ゾロの瞳がそう言っている。
「そうだな」
瞳を伏せてサンジが言う。
「で、どうする」
淡々とした声でゾロは問う。
真意が分からず、サンジは首を傾げる。
それを受けてゾロは、淡々と答えた。
「ヤるのかヤらねぇのかって、聞いてる」
「………もう少し、言い方ってのはねぇのか」
「ねぇな。回りくどいのは嫌いだ」
「そういうヤツだよ、お前は」
サンジはため息をついてゾロの上から退いた。
髪をかき上げ、思い出したようにポケットを探る。
そして取り出したタバコをくわえる様を、ゾロは寝転がったまま見ていた。
「いつまでそうしてんだ」
サンジが怪訝な声で問うと、ゾロは無言のまま口元をゆるめて、笑った。
「…なに笑ってんだ」
気味わりぃな、とつぶやくようにサンジは言った。
くすり、と小さな笑い声と共にゾロは寝返りをうって背を向け、
「別に」
と言った。
「答えになってねぇだろ」
「必要ねぇだろ、バーカ」
「んだこら」
さすがにサンジはむっとして、タバコの火を消し立ち上がった。
けれど届いた寝息の音に、呆れて崩れるように座り込んだ。
「…んだかなぁ」
手を伸ばして、緑の髪をかき回す。
ゾロは鬱陶しげに顔をしかめたが、目を覚ましはしない。
「どうしたもんかねぇ」
サンジはタバコを取り出し、火をつける。
忍び笑いをもらしてゾロを見る。
視線に気付いたのか、顔を背けるように寝返りをうった。
サンジはタバコを吸い込み、ぽつりと呟いた。
「分かりたく、ねぇなぁ…」
そのひどく単純な答えを手にしてしまったら、もう、後には戻れない。
自覚してしまった時点で、もう、手遅れなことも分かっては、いたけれど。
でも。
「…分かりたく、ねぇよなぁ」
言い聞かせるように呟いて、紫煙を空に吐き出した。
変わらず響く寝息を聞きながら。
-end.