夕陽が沈む。
水平線が橙色に染まっていく。
海の見える森沿いの道を歩きながら、サンジはタバコに火をつけた。
空と同じ色の炎を眺め、紫煙を吐き出す。
ふと上げた視線の先に、良く知った姿を見つけてにやりと笑った。
「何やってんだ」
「あ?」
その人影は、木の幹に預けていた頭を上げた。
「こんなところ、何もないだろうが」
タバコをくわえ、左側に並んで座った。
流れる紫煙を手で払いながら、そいつはそっけなく言った。
「別に」
「ふうん」
あっさりとサンジは答える。
どうせ、船に帰る途中だったのだろう。
「お前こそ何やってんだ」
問い返されたサンジは昇る紫煙を眺めつつ、答える。
「おれは散歩」
「散歩ぉ?」
怪訝な顔をされた。
勿論、本当は違う。
隠すつもりもないけれど、伝えるつもりもない。
サンジは指を伸ばして、その右耳を飾るピアスに指を伸ばした。
「そういうマリモくんは、いつまでここにいる気なんだ?」
「もう戻るところだ」
「へぇ?」
ふ、と頭が傾いでピアスが遠ざかる。
「日が沈む前には、帰ろうと思っていたところだ」
「へぇえ?」
「何が言いてぇんだ、テメエ」
頭がくるりと、正面を向いた。
その勢いで、ピアスが揺れて指先を叩いた。
じん、と感じる微かな痺れ。痛みではなく、刺激。
サンジは視線を指先に落とし、口元に笑みを浮かべた。
「腹、減ってねぇ?」
「は?」
思いもしない問いだったのだろう。一瞬にして、怒気が霧散した。
「は、じゃねぇよ。いつもなら晩飯の時間だぜ?」
「別に」
「へぇ?」
小さく、舌打ちの音。
顔を覗くと心底イヤそうな顔でにらみ返された。
「ほんと、テメェは何が言いたいのかわからねぇ」
「だからさ。本当に、腹は減ってねぇんだな?」
「ねぇっつってんだろ」
サンジは短くなったフィルターを地面に押し付け火を消して、立ち上がった。
「じゃ、行くか」
「何処に」
不審なものを見る瞳にサンジは満足そうな笑みを向ける。
「散歩。夕陽が沈むのを見てから帰ろうぜ」
サンジの言葉に一瞬、眉が動いた。
けれど次の瞬間、いつもどおりの表情に戻ってゆっくりと立ち上がって、
「…ほんっと、テメェは分からねぇな」
とつぶやく声を聞いて、サンジは目を細めてゆるゆると、新しいタバコを口に咥えて。
「おまえだから分からねぇんだよ、ばーか」
と、つぶやいた。
背後では水平線に近づく太陽が、柔らかな光を投げかけている。
-end.