01
青空に映える橙色。
微かに香る潮の匂い。
ある晴れた日、突然ナミがみかんの収穫をはじめた。
「あれ、ちょっと時期はずれじゃないですか?」
嬉々として手伝いをはじめたサンジが尋ねた。
「うん、そうなんだけど。ちょっとね」
パチン、とはさみの音。
軍手をした手で大事そうにみかんをもぎながら、ナミは続ける。
「サンジくん、お願いがあるんだけど」
いつもの“お願い”の仕方とは違うものを感じながら、サンジは答えた。
「なんなりと!」
惑いのない返事に、ナミはくすりと笑った。
「あのね…」
それは否やのない提案だった。
もっともサンジは、ナミの願いなら、どんなものでも叶えるつもりでいるのだが。
「ど、どうしたんだ!?」
「うわー、すっげぇ…」
次々とキッチンに運び込まれるみかんの山に、ウソップとチョッパーは息を飲んだ。
「なんだ、嵐の前触れか…?」
一粒でももいだら世にも恐ろしい制裁が待っている果物が山と積まれていく光景は、恐怖すら感じさせた。
「バカ言うな! おれがナミさんの意向に逆らうようなマネするか!」
最後のひと山を運び終えたサンジが怒鳴った。
「じゃ、なんだ?」
床に転がったひとつさえ、触るのが躊躇われるらしく、じっと眺めたままでチョッパーが尋ねた。
「これからプレゼントを作るんだ」
「プレゼント?」
声を揃えて言うふたりには目もくれず、サンジは積まれたみかんを選り分けながら答える。
「次の島には、一週間後くらいに到着予定だそうだ」
「ふんふん」
「で、その島にはでかーい運送会社があるそうだ」
「それで?」
サンジは顔を上げて、向かいの壁にかけられたカレンダーを指して言った。
「その会社に頼めば、どんな荷物でも一週間でアラバスタまで届けてくれるってさ」
ウソップとチョッパーは顔を見合わせた。
「一週間?」
「えーと、今日から一週間でその島に着いて、で、そこから一週間…」
カレンダーの日付を指でたどって、ふたりは手をたたき合った。
「間に合う!」
「そういうった」
くわえたタバコを流しに放って、サンジはにやりと笑った。
「サンジ、なんか手伝うことあるか?」
「何作るんだ?」
「海運だと湿気があるし日数もあるから、無難にジャムとか…」
サンジは脳内のレシピをたどりながら答える。
「あ、じゃあ、おれが芸術的なビンを作ってやる!」
勢い良く手をあげたのは勿論ウソップだ。
「芸術的〜?」
「なんだ〜? おれ様のセンスと手先の器用さを疑うのか?」
「ビンに芸術もへったくれもねぇだろ」
「言ったな! 使うのも勿体ないくらいのビンを作ってやる!」
何か言い返そうとサンジは口を開いたが、思いとどまった。
使うのも勿体ない云々はともかく、入れ物は必要だ。
「あ、サンジ、サンジ! みかん、皮まで使う? 皮、ちょっとくれないか?」
手際よく皮をむき始めたサンジの手元を見て、チョッパーが言った。
「皮?」
「ああ! みかんの皮って、肌に良い成分を含んでいたはずなんだ。うまく抽出できたら、肌荒れの薬とか作れると思うんだ」
ダメかな? と目で訴えてくるチョッパーの頭を、サンジはなでてやった。
「ああ、全部使って構わねぇよ」
「ほんとか?」
「ああ」
サンジの答えに、チョッパーは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! あ、ウソップ! おれにもビン作ってくれよ!」
「え〜? 本当に出来んのか〜その薬とやらは〜?」
「出来るよ!」
「ほんとか〜?」
にやにや笑ってからかうウソップと、ムキになって言い返すチョッパー。
ふたりの様子を見ながらサンジは作業を続けたが、突如、ウソップの体が飛んだ。
「はぶっ!」
「なんだなんだなんだ〜! 楽しそうだな!」
満面の笑みを浮かべたルフィだ。
楽しげなキッチンの様子にひかれて、扉を開けると同時に飛び込んできたのだ。
しかし勢いが良すぎて、不運なウソップにぶつかり、彼は飛んでいったというわけだ。
「なんだおい、静かに入って来い!」
「あっはっはっは! わりぃわりぃ」
部屋の端まで飛ばされたウソップは勢い良く立ち上がると、ルフィの胸ぐらを掴んだ。
「悪いで済むかぁ!」
「なんだ、元気じゃねぇか」
「元気なわけあるか! こんな真似されて黙ってられるかってんだ」
チョッパーは小走りにウソップに駆け寄り、背中や足を軽くさすって言った。
「何でもねぇな」
「そんなわけあるかぁ!」
「でも、骨に異常ねぇから、大丈夫だ。けど一応、湿布は貼った方がいいな」
自分の診察に頷きながら、チョッパーは医療道具を出した。
「何でもねぇなら、わりぃで済ませろよ」
「お前が言うな!」
悪びれもせずに言ったルフィに、ウソップは激しく突っ込みを入れた。
「動くなよ!」
包帯を巻いていたチョッパーが文句を言うと、ウソップは不満げな顔をしながらも大人しく従った。
「で、何してるんだ、お前ら?」
目を輝かせて問い掛けるルフィにかなう者はいない。
三人は事の成り行きを船長に話して聞かせた。
「うっし! おれも作るぞ!」
三人は顔を見合わせた。
「……何を?」
「何をって、そりゃあ……」
後のセリフが続かない船長に、サンジはおごそかに告げた。
「とりあえず、外で寝てるマリモを起こして来い。あいつだけ何もしないわけにゃ、いかねえだろう」
「そうだな、皆からのプレゼントにしないとな!」
入って来たときと同じ勢いで出ていった船長を見送りながら、サンジはタバコに火を付けた。
「…で、あのふたりに何をさせればいいのかねぇ?」
ウソップとチョッパーは黙って顔を見合わせるばかりだった。
→ 02へつづく