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××× 032 : テーブル ×××


       ※ “062:フワフワ”の続きにあたりますが、読まずとも平気。







 ・ ・ ・ 。
 誰かが、呼んでいる。
 ・ ・ ・ 。
 浅い眠りの中、意識の隅でサンジは思う。
 ・ ・ ・ 。
 規則正しいリズムの音で。
 ・ ・ ・ …… ・ ・ ・ 。
 誰かが自分を、呼んでいる。
 ・ ・ ・ …。
 サンジの意識は眠りの海から、ゆっくりと浮上した。
 ・ ・ ・ …
 薄く開いた目に映ったのは、指先。
 ・ ・ ・ 、 ・ ・ ・ 。
 規則正しく、三回。
 テーブルの上を、指の腹で叩いている。
 どうしてこんな音で自分を呼ぶのだろう…?
「起きたか」
 止んだリズムの代わりに聞こえた、無愛想な声。
「ゾっ…?」
 鼻に触れるほどの距離に、緑色の髪。
 反射的に身を起こす。
 食堂のベンチに腰掛けてふたり、眠ってしまっていたらしい。
 しかも、ふたりで一枚の毛布を分け合って。
「もう夜が明けるぞ」
 ゾロは立ち上がって伸びをした。
 落ちかけた毛布を引き上げながら、サンジはつぶやいた。
「なんで、お前が」
「覚えてねぇのか」
 ゾロは不満そうに唇を曲げる。
「昨夜、うたた寝をしていたお前に毛布をかけたら、そのまま手ぇ掴んで離さなかったんだ」
「…え」
 胸ポケットに伸ばした手を止めて、サンジは記憶を手繰る。
 昨夜。
 眠気に勝てず、テーブルに突っ伏した…ところまでは覚えている。
 そして、その後は?
 困惑するサンジを余所に、ゾロはゆっくり伸びをして平静な声で告げた。
「ダメだ。寝る」
「は?」
「眠い」
 それだけいうと、重力に任せたようにベンチに腰を落とし、テーブルに突っ伏した。
 声をかける間もなく、聞こえ始めたいびき。
「なんなんだまったく」
 息を吐きながら、サンジは、あらためて胸ポケットからタバコを取り出し口に咥えた。
 それから、テーブルの隅に置いたマッチに手を伸ばす。
 少し、遠い。
 横着をして、立ち上がらずに体を伸ばす。
 と、置いたままのペンが肘に当たって転がった。
「…ん……」
 いびきが止んだ。
「あ」
 起こしたか?  サンジは振り返って様子を窺う。
 けれど、再び変わらぬいびきが聞こえ始めた。
「…これくらいで起きるわけねぇか」
 安堵の息をついて、ペンを机の隅に置く。
「……んん…」
 けれど再び、いびきが止んだ。
「……?」
 サンジはタバコを咥えたまま、ゾロの顔を覗き込んだ。
 眉間にシワを寄せてはいるが、起きそうにない。
 しばらく待つと、再びいびきが始まった。
「………あ」
 ひょっとして。
 サンジはテーブルの上を、指で
 … ・ ・ … 。
 そっと、叩いた。
「……んん」
 予想通り、いびきが止んでうめき声が聞こえ。
 サンジはタバコを咥えたまま、笑みを浮かべた。
 今朝のサンジと同じように、ゾロは耳をテーブルにつけるようにして眠っているのだ。
 だから、叩いた音が耳を打つ。
 ・ ・ …。
 規則正しく、二回。
「……んだ…」
 サンジの刻んだリズムにゾロは呻く。
 けれどやはり、眠りからは覚めない。
 … ・ ・ …。
「…んんん…」
 眉間にシワを寄せて。けれどちっとも、目覚めない。
 ・ ・ …
「んー…」
 もぞり、と体を動かす。けれどやっぱり目覚めない。
 サンジはくつくつと笑いながら、テーブルをそっと叩き続けた。



 -end.


 ゾロは3回、サンジは2回、テーブルを叩く。
 声ではない音で、声には出さない呼び方で、互いを呼ぶのです。
 と、蛇足ながら解説してみる。
  (2006.4.23)


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